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ウサギのナミダ ACT 1-2 ■ 休みの日、マスターは朝早く起き、天気が良ければ近くの公園まで散歩に連れていってくれる。 わたしはこの朝の散歩が大好きだ。 ぴんとはりつめたように澄んだ空気、ひんやりと頬をなでる風、そして蒼く遠い空。 世界はこんなにも広く、きれいなのだと実感できるから。 そして、いつもは厳しい表情のマスターも、このときは少し優しい表情で一緒にいてくれるから。 わたしは、マスターの上着の胸ポケットから顔を出し、朝の世界を眩しく見つめた。 マスターの住まいから歩いて五分ほどで、目的の公園に到着する。 マスターによれば、この界隈では一番広いのだそうだ。 公園内は遊歩道が整備されており、昼間は散歩する人や、走り回る子供たち、のんびりと歩むご老人のみなさんなどがやってくる憩いの場だという。 わたしもジョギングをする人を見たことがある。 でも、日曜日の早朝は、たいてい誰もいない。 今日も人影はなく、わたしたちだけが公園内へと入っていく。 わたしは、マスターを見上げ、 「マスター」 声をかけた。 マスターがわたしを見つめる。 この人の視線はいつも厳しく感じられるけれど、いつもまっすぐだ。 わたしは小首を傾げるようにして、おそるおそるマスターを見た。 するとマスターは口元だけかすかに笑ってくれた。 「よし、行け」 マスターの許可が出た。 わたしは思わず笑顔になり、マスターの胸ポケットから飛び出した。 わたしの身長の何倍もの高さから、空中に躍り出る。 こわがらず、そのまま着地。 膝のクッションを効かせて、着地の衝撃を吸収する。 衝撃を完全に吸収してくれたのは、わたしに両脚に装着されたレッグパーツ。 マスターが作ってくれた、わたしのオリジナル武装だ。 わたしは、身体が沈み込んだ反動を利用して、前方に飛び出す。 レッグパーツのホイールが甲高い唸りを上げる。 わたしは腕を振ってバランスを取る。 一気に加速し、疾走を開始する。 風になる。 ここからはわたしの大好きな時間。 遊歩道を走る、疾る。 思うさま疾駆する。 ものすごい勢いで流れていく公園の木々。 風に溶けていくような感覚。 なんともいえない解放感がわたしを包む。 それは何度感じても、嬉しくて気持ちのいいものだった。 公園を囲む遊歩道の二つ目の角が見えた。 わたしはそこで体を起こし、スピードを落としながら一八○度ターンをする。 簡単なトリックだけど、きれいに決まったのが嬉しい。 わたしはまた前傾姿勢で走り出す。 わたしの大好きな時間の最後には、マスターが待っていた。 左の肘を水平に突き出して立っている。 瞳はわたしに不敵な視線を送っている。 これは課題だ。 神姫のわたしにマスターが出題するパズル。 わたしは、あのマスターの左肘に着地しなくてはならない。 先週は、マスターがベンチに座っていたから、難易度が上がっている。 わたしはスピードを落とさずにマスターへと駆け寄る。 そして走りながら、マスターの肘へと至るルートを見定める。 最後の数メートルを滑走し、タイミングを計ってジャンプ! わたしは、マスターの肘の先にあった公園の植木に飛びつくと、木の幹にホイールを走らせて、巻き付くように登り出す。 一気にマスターの肘の上まで登ると、そこでまたジャンプ。 着地点を見定めながら、一回転一回捻り。 回転を終えた瞬間、わたしはすとん、とマスターの肘の上にお尻から着地して座った。 「よし、上出来だ」 わたしのトリックプレイに、マスターは素っ気ない口調で、そう言った。 わたしは、さっきよりも和らいだマスターの表情を見つけて、やっぱり嬉しくなった。 にこりと笑顔をマスターに贈り、わたしは再びマスターの胸ポケットに滑り込んだ。 わたしの大好きな時間はこれでおわり。 でも、マスターの住まいに帰るまでの間、嬉しさでいっぱいになったわたしの胸はずっと高鳴っていた。 □ 散歩が終わり、朝食を食べて一休みしたら、俺は最寄りの駅前にあるゲーセンにティアを連れて向かった。 ティアをバトルにデビューさせて二ヶ月が経つ。 週末はずっとこんな感じで、散歩のあとでゲームセンターに足を運んでいる。 武装神姫のバトルは、公式の神姫センターや神姫を扱っているホビーショップなどでも楽しむことができるが、俺はもっぱら近場のゲーセンだった。 足を運びやすいのが一番の理由である。 もう一つはティアの武装だ。 ティアのレッグパーツは、俺が部品を集めたり作ったりして組み上げたオリジナルだ。 公式武装がメインの神姫センターは出入りしにくい。 雑多な神姫達が集まるゲームセンターの方が都合がいいのだ。 まだ昼前の時間帯で、ゲームセンターの武装神姫用筐体の周りもあまり賑わっていない。 その方が都合がいい。 むしろそれを狙って、少し早い時間帯に来ているのだ。 俺は対戦用の筐体に座ると、ティアをポッドに収め、サイドボードに武装を並べる。 ここでのバトルは、基本的にコンピューターを介したバーチャルバトルである。 俺はステージを「廃墟」に固定し、一人用のミッションモードを開始する。 コンピューターの出す課題を次々にクリアしていくこのモードは、一人でもバトルができるが、訓練に過ぎない。 俺はティアに細かく指示を出しながら、黙々とミッションを消化した。 つまりはこうして対戦者を待っているのだ。 対戦者待ちをするのには理由がある。 ティアの戦闘スタイルの特性上、市街戦しか有効に戦えないのだ。 つまり、ステージを固定するために、乱入者を待っている。 ……そう思っている間に、早速乱入者がやってきた。 三戦ほどやって、負けたところで席を立つ。 今日はいずれも地上戦メインの神姫とのバトルだった。 よく手合わせをする、顔見知りの常連さん達だ。 負けを喫したのは、バッフェバニー・タイプ。 あの神姫はティアよりも火力がある上に、機動性能もいい。ミリタリーファンに好まれる神姫だけに、市街戦での戦術は見事だった。 俺は神姫バトルを映し出す大型モニターを眺めながら、缶コーヒーを開けた。 「ティア。今のバトル、何が問題だった?」 俺は胸ポケットから顔を出すティアに尋ねる。 負けた後は、必ずこうしてバトルの検討をする。 俺たちは決して強いわけではない。 オリジナルのバトルスタイルを確立するため、細かく検討する必要があるのだ。 「えと……相手がビルにうまく隠れて、なかなか攻撃できませんでした」 「そうだな。市街戦の腕前も相手の方が上手だった。位置取りがうまかった」 「あ、あと、相手の攻撃にさらされることが多かったと思います」 「……こっちの行動パターンが研究されているかな」 「かもしれません……前に戦ったときとは違うタイミングや方向から攻撃を受けたような……」 バッフェバニーは銃火器による攻撃がメインだから、ティアは狙いをはずすような機動を心がけて戦うことになる。 ビルの壁や屋根も縦横無尽に駆け回るティアを、幾度と無く捕捉できるというのは、やはり行動パターンが読まれているのか……。 「いよう、遠野! 調子はどうだ!?」 人の思考を大声でぶちこわして現れたのは、革ジャンを着た派手な男だった。 「……大城、もう少し声を抑えてくれ。それでも聞こえるから」 「おお、うるさかったか? そりゃすまん、わっはっは」 なおのことうるさくしゃべるこの男は、大城大介。 以前バトルしたティグリース・タイプのオーナーだ。 おそらくは今も外に駐車してあるだろう、ごっついバイクを乗り回し、神姫にもエアバイク型のメカに乗せている。 シルバーのアクセサリーをこれでもかと身につけ、派手な柄のシャツに革ジャンという出で立ちは、どこからどう見てもヤンキーである。 バトルの後、難癖付けてきた大城を言い負かしたのだが、なぜか次に会ったときにはやたら気さくに声をかけてきた。 それ以来、俺の姿を見つけては声をかけてくるようになった。 俺たちのどこが気に入ったのだろうか。 それは目下、俺にとって最大の謎であった。 「……そっちは、来たばかりか?」 「おう。虎実のマシンの整備に手間取ってなぁ」 大城の肩を見ると、そこに彼の神姫・虎実が座って、こちらを睨みつけていた。 「……よお、虎実」 声をかけると、ぷい、とそっぽを向いた。 俺は小さく肩をすくめる。 虎実はいつもこんな調子だった。オーナーの大城の態度とは正反対だ。 「悪いな。こいつもほんとは照れてるだけなんだ」 「ばっ……! 照れてなんかいねぇ! 慣れ合うのがイヤなんだよっ!」 ムキになって否定するが、大城はせせら笑っている。 大城がからかい、虎実はさらにムキになる。 この漫才は、とうとう頭に来た虎実がクローを装備し、大城の顔をひっかくまで続くのだ。 ゲームセンターに通うようになって、俺の生活も変わった。 こうして神姫のオーナーたちと一緒に過ごす時間は、いままでの俺の生活にはなかった。 武装神姫を始めなければ、大城などとは一生会うことも話をすることもなかったかもしれない。 そう思うと、神姫はただバトルをするだけの存在ではなく、オーナーたちの枠を広げ、知らない世界を見せてくれる存在なのだと実感する。 「おっ?」 虎実にひっかかれ、顔中をミミズ腫れにした大城が、ゲーセンの入り口に注目した。 「遠野、あそこ見ろよ」 そこには一人の少女がいた。 大城は女の子に目がないので、妙にめざといのはいつものことだ。 だが、大城が注目するのも無理ないと思わせるほど、その少女は美人だった。 ショートカットにした髪と細いジーパンという装いのせいか、活発そうな印象だ。 手には、神姫収納用のアタッシュケースを下げている。 彼女はきょろきょろと店内を見回している。 「神姫のオーナーか……?」 俺が呟く。 すると、その声が聞こえたかのように、少女はこちらを見た。 視線が合う。 すると、少女はまっすぐこちらへやってきた。 隣で大城がなにやら喜んでいるような気配がするが、あえて無視した。 「こんにちは」 とても気さくな挨拶が、微笑みとともにすっと入り込んできた。 「こんにちは!」 「誰かお探しですか」 大城の挨拶が終わるのを待たずに、俺は本題を切りだした。 すると、彼女はちょっと驚いた顔になったが、すぐに落ち着いて、こう言った。 「ええ。……ハイスピードバニーのティアっていうオリジナルの神姫をご存じですか? このゲーセンがホームグランドだって聞いたんですけど」 俺と大城は顔を見合わせた。 「ハイスピードバニー?」 「はい。なんでも地上戦専用の高機動タイプで、バニーガールの姿をしているとか。とても 特徴的な戦い方をすると噂に聞いています」 「……それで名前がティアなら、俺の神姫かもしれないけれど……」 「ほんとですか!?」 このショートカットの美少女は声を上げて、にっこりと笑った。 ほとんど反則な笑顔だ。 「よかったぁ。会えないと大変なんですよ。何度も通わなくちゃいけないし」 「しかし、ハイスピードバニー?」 彼女が口にした呼び名だ。 そんなベタな名乗りを上げたことはないはずだが……。 「この近辺では有名ですよ。みんなハイスピードバニーという二つ名で呼んでますね」 俺は苦い顔をした。 あまり目立たないように戦ってきたつもりだったが、やはり特徴的な戦闘スタイルが目に付くのか。 しかも、二つ名まであるのか。 そんな心配と同じくらい、ひねりのないネーミングに不愉快になる。 「それで、君はわざわざ、ティアと戦いに来たというわけ?」 「はい。遠征して、いろいろなタイプの神姫と戦うのが好きなんです」 この少女は、迷い無くはきはきと答える。 年の頃は、俺と同じか少し下くらいだろうか。 武装神姫のプレイヤーにはとても見えない。 テニスか何かをやっていると言われた方がよほど現実味があった。 「バトルしてもらえませんか? 私の神姫と」 「君の神姫は……」 「ここよ、ここ」 小さな声がしたのは、彼女の肩あたり。 いつのまにか、一体の神姫が、少女の右肩に座っていた。 特徴的な巻き髪を揺らしながら、にこにこと笑っている。 「イーダ・タイプか……」 イーダ・タイプは高機動タイプのトライク型だ。 地上戦専門の神姫だし、確かにティアとは噛み合うだろう。 だが、本体がイーダ・タイプだからと言って、武装までそうだとは限らない。 「ミスティよ。よろしくね」 神姫は自らそう名乗った。 それを聞いた大城がいきなり叫びだした。 「イーダのミスティと言えば! もしかして、エトランゼ!?」 「……まあ、そんな呼ばれ方もしてますね」 「エトランゼ?」 俺は大城の方を向いて尋ねた。 すると、大城は大きなため息をついて、俺を見る。 「遠野、おまえは俺よりも神姫に詳しいくせに、なんで他のプレイヤーや噂には疎いんだ……」 失敬な。雑誌に出るようなプレイヤーたちなら俺だってチェックしてる。 大城はまたひとつため息をつきながら、俺に解説してくれた。 「『異邦人(エトランゼ)』のミスティと言えば、この沿線あたりじゃ有名な神姫だぜ。 噂になっているような強い神姫を相手にするために、あちこちのゲーセンやホビーショップの対戦台に現れる凄腕の神姫プレイヤー。 腕前もかなりのものらしい。それなりの腕の神姫をあっさり負かしたりするそうだ。 で、その神姫のマスターは、結構な美少女って噂だけど……」 大城はちらりとミスティのマスターを見た。 「噂通りってとこだなぁ」 彼女は困ったように笑っている。 「それで、あなたの神姫は? 今日は連れてきてないですか?」 「いや……ティア」 俺がそっと促すと、胸ポケットから、ティアがおずおずと顔をのぞかせた。 「わぁ、かわいい!」 少女は身を屈めて、俺の胸ポケットをのぞき込む。 ティアは恥ずかしいのか、半分顔をポケットの縁で隠しながら挨拶した。 「こ……こんにちは……」 「こんにちは」 返事を受けて、ティアはますます顔を隠してしまった。 「ティアは照れ屋さんなのかな?」 「ああ、ちょっと人見知りでね」 「噂通り、うさ耳なんですね。かわいいなぁ」 少女は無邪気に笑う。 なんだか、この笑顔に調子を狂わされっぱなしだ。 「それで、どうですか?」 「え?」 「私のミスティとバトルです」 「ああ……」 無邪気な笑顔とバトルという言葉に違和感を感じて、俺は少し戸惑う。 だが、断る理由がない。名の知れた、しかも地上型とのバトルなら歓迎だ。 「ティア、どうだ? やれるか?」 「マスターが……戦いたいというのなら」 俺は頷くと、少女に向き直った。 「フィールドは、廃墟か市街地。それでもいいかな?」 「望むところです」 そう言って、少女はにっこりと笑い、空いている筐体に歩み寄った。 俺も筐体の反対側へと移動する。 まばらだったギャラリーが、少しずつ俺たちの座る筐体の前に集まりだした。 まだ始まってもいないバトルにギャラリーがつく。 彼女の知名度と、俺たちの注目度は、俺が思っている以上のものであるらしい。 筐体のサイドボードに武装を並べ、バトルの準備をしていると、脇に大城がやってきた。 「なんだ、大城? 彼女の側で見てなくていいのか」 「おまえの次に、俺が対戦申し込むんだよ。おまえの戦略、しっかり見せてもらうからな」 すごみのある笑い。 なるほど、俺から戦略を盗もうという寸法か。 「だったら、一つ教えてくれ」 「おう、なんだ?」 「ミスティは地上型か、それとも違うタイプか。知っているか?」 「噂じゃ、普通のイーダだって話だな。 バトルを見た訳じゃないから、本当のところはわからんが、イーダのくせに、飛行型の神姫もあっさり倒すんだそうだ」 「本当か?」 「まあ、噂だがな」 大城は肩をすくめた。 その噂が本当だとしたら、ミスティは相当な実力の持ち主だ。 地上型の神姫が、飛行型の神姫から勝利を奪うのは難しい。自分より上にいるというだけで有利なのだ。 それをあっさり覆すということは、何か特別な力がある可能性が高い。 それが装備なのか、戦術なのか、策略なのかはわからないが…… 用心に越したことはない。 俺はそう判断する。 筐体の向こうを見てみれば、ミスティのマスターと目があった。 不敵な微笑み。 バトルに向かうにふさわしい表情になった。 なるほど、彼女も確かに神姫プレイヤーなのだ。 それでは始めよう。 俺はティアをアクセスポッドに送り込み、スタートボタンを押した。 次へ> トップページに戻る
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「さ~て、今週のねここの飼い方は~?~なの」 「何時流に乗っかったボケしてるのよ……」 「てへへ。一回やってみたかっただけなの♪」 「……まぁ、いいけどね。 それで今回ですが、コミックマーケット72で頒布される 『武装神姫ねここの飼い方02』の新着情報をお届けしたいと思います」 「ドンドンぱふぱふー、なの~♪」 「さて今回収録されているのは、『そのなな』、と『そのきゅう~そのじゅうよん』までになっています。そのはちがないのは前回のクライマックスに持ってきたため、ということに」 「劇場版は~?」 「うん、最初はそっちも入るはずだったのだけれど、ある事情で思ったよりページが増えてしまったので今回はカットすることにしたの。それはまた次回ね」 「えー、ねここそっちも楽しみにしてたのにー! ひどいよぅ、みさにゃぁん……」 「あはは、ごめんね。でもその代わり、前回の数倍の加筆修正をしているからそれで満足してほしいかな。エルゴトーナメント戦なんか7割は新作なんだよ。」 「あー、そうなのっ。エストちゃんとも戦ったしぃ、それにぃココちゃんもぉ~」 「それ以上はネタバレになるから言っちゃダメ」 「えー、ねここ言っちゃいたいのー! 「しょうがないわねぇ・・・じゃあ少しだけよ」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ さてさて、一回戦のお相手はどんな娘なのかな、と。 「フフフ……それは、私です!」 「にゃ?」 明朗快活な声が、反対側のコンソールから届けられてくる。 ねここと2人、そちらに目を向ければ、操作ボードの上に腕を組み、カッコつけているのか、 斜め45度の角度でこちらを見つめている神姫が1人。 頭部の特徴ある飾りからストラーフ型らしいその神姫は、足首まである豪奢な、黒衣のビロートのマントを身に纏い、 またその瞳は前髪に隠れていて、口元だけがニヤリと不敵な笑みを浮かべている。 しかも何故か彼女にはスポットライトが煌々と当たっていて、バックの赤に黒がよく映えるわね……って、えぇ? 「うぉっ、まぶしっ!?」 「何時の時代のネタをやっている、この馬鹿弟子がぁ!」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「……えー、たったこれだけなの……?」 「全部やっちゃ宣伝の意味がないでしょ。我慢するの」 「うぅ……はぁい、なの」 「いい子ね、後で杏仁豆腐作ってあげるから。それと今回、なんとあのGの人にゲスト原稿を頂きました!」 「おおー。すっごいのー♪」 「今まで謎にされていた、ねここと店長さんたちの裏の顔との出会い、その秘密が今大公開されるのです」 「面倒だからかかなかっただけとも言うの」 「う、言いにくいことをハッキリと言うわね……とにかくっ、結構な長編なのでご期待ください」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「はいはい。お客さん、今日はもう閉店なんですが…急ぎですか?」 「店長さん、雪乃ちゃんが!」 シャッターを上げたそこには見知った顔。ウチの常連さんである風見美砂ちゃんその人が その表情を曇らせて立っていた。肩の定位置にはねここちゃん。 そしてその手には……夕方店を後にしたゆきのんが眠っていた。 一目で解るくらい損傷している。 そして、その傷には見覚えがあった。 「辻斬り神姫……」 低く呟く。 「雪乃ちゃんの帰りが遅いから心配になって探したら……近くの公園で倒れてて」 「店長さん、お願いなの! 雪乃ちゃんを助けて欲しいの!」 「ああ、言われるまでもねぇ。任せろ!」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「あぅあぅ、ゆきにゃんが、どうなっちゃうのっ!?」 「それは本編をお楽しみ、ですよ」 「うぅ、商売上手なのぉ……」 「それでは、『武装神姫ねここの飼い方02』を、ご期待くださいっ」 「尚、現在『虎の穴』にて委託販売中となっています。 虎の穴通販ページ 「地方の方でも通販で確実に購入できますよっ」
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武装神姫 MMS,Type ANGEL ARNVAL Mass-production model 『量産型アーンヴァル』 「我々は、大儀のために戦うのです」 【基本能力】 量産型アーンヴァルは集団戦闘の専門家である。 そのため戦闘基本値に以下の修正を得る。 【射撃基本値】(+2) 【格闘基本値】(+2) 【回避基本値】(+3) 【特殊】《フォーメーション効果》を受けた場合【効果】(+1) 【技能】 量産型アーンヴァルはキャラクター製作時に、以下のリストから技能を2つ習得できる。 また経験を積んでキャラクターレベルが上昇した場合、3で割り切れるレベル(3,6,9,12……)に到達する度、新しい特殊技能をひとつ、修得できる。 量産型アーンヴァル 技能リスト 《追加HP》 《一斉発射》 《ウェポン習熟》 《緊急回避》 《逃走》 《シールドブロック》 《追加SP》 《反射神経》 《連携攻撃》 《タフネス》 《突撃》 《不死身》 《SP回復》 《狙撃》 《複数目標攻撃》 《一斉掃射》 ○量産型アーンヴァル(ソルジャー) 【基本性能】 【射撃修正】(±0) 【センサー性能】(+0) 【速度】(6) 【格闘修正】(±0) 【装甲値】 ( 5 ) 【旋回】(3) 【回避修正】(±0) 【HP】 ( 24 ) 【パワー】 ( 5 ) 【シールド】 ( 2 ) 【格闘武器】 名称 /威力/格闘補正/使用回数 格闘 / 5 / ±0 / ∞ ライトセイバー / 8 / +1 / ∞ 【射撃武器】 名称 /威力/~5/~10/~15/~20/使用回数/間接/連射 アルヴォLP4ハンドガン / 7 /+3/ - / - / - / 8M / ×/ × アルヴォ PDW9 / 9 /±0/ -2/ - / - / 9M / ×/ ○ ○量産型アーンヴァル(ガード) 【基本性能】 【射撃修正】(±0) 【センサー性能】(±0) 【速度】(4:VTOL) 【格闘修正】(±0) 【装甲値】 ( 8 ) 【旋回】(3) 【回避修正】(-6) 【HP】 ( 24) 【パワー】 ( 6 ) 【シールド】 ( 2 ) 【格闘武器】 名称 /威力/格闘補正/使用回数 格闘 / 6 / ±0 / ∞ ライトセイバー / 8 / +1 / ∞ 【射撃武器】 名称 /威力/~5/~10/~15/~20/使用回数/間接/連射 アルヴォLP4ハンドガン / 7 /+3/ - / - / - / 8M / ×/ × アルヴォ PDW9 / 9 /±0/ -2/ - / - / 9M / ×/ ○ 【カスタムデータ】 ○アーンヴァル・ソルジャー 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ ヘッドセンサー・アネーロβ /《センサー+1》 胸部 / (1)/ buAM_FL010アーマー /《HP+2》 《装甲+1》 《シールド(2)》 脚部 / (1)/ AT2レッグパーツ /《HP+2》 《装甲+1》 背部U / (1)/ リアウイングAAU3 /《速度+1》 計 /( 3 ) ○アーンヴァル・ガード 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ ヘッドセンサー・アネーロβ /《センサー+1》 胸部 / (2)/ buAM_FL011フルアーマー /《HP+2》 《装甲+3》 《回避-4》 《シールド(2)》 脚部 / (2)/ ホバリングギアAT4 /《HP+2》 《装甲+2》 《回避-2》 《速度-1》 《VTOL》 背部U / (0)/ / 計 /( 4 ) (*1)以上の装備はアーンヴァルが装着しても【CP-1】のボーナスが適用される。
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Gene Less じ:ジーンと来る・・ワケねえよ! い:いいのかよ!? いいんだよ!! ツッコんだら負けだよ!!! ん:ん? とか深く考えてもしょーがないよ! れ:冷静になったら負けだよ! す:すいませんやりたい放題っす(爆) Gene Lessは、つまりは右脳で楽しむラジカル神姫オムニバスです♪ 注意?:お読みの際は用法要領を守ってるといいのかなぁ?(聞くな) 書いたの/うさぎなひと 目次 Gene1 解体屋 →→→Gene1おまけ Gene2 花屋 →→→Gene2おまけ Gene3 床屋 →→→Gene3おまけ Gene4 本屋 →→→Gene4おまけ Gene5 地上げ屋 →→→Gene5おまけ Gene6 靴屋 →→→Gene6おまけ Gene7 とうふ屋 →→→Gene7おまけ Gene8 ノミ屋 鳳凰杯とリンク →→→Gene8おまけ Gene9 餅屋 →→→Gene9おまけ Gene10 オケ屋 →サビ抜き版 →→→Gene10おまけ Gene11 テキ屋 →ようこそ黒葉学園へ!とリンクしてる気もする〈笑) →→→Gene11おまけ Gene12 服屋 →→→Gene12おまけ Gene13 お好み焼き屋 →→→Gene13おまけ Gene14 護り屋 →→→Gene14おまけ Gene15 殺し屋 →→→Gene15おまけ Gene16 浜茶屋 →→→Gene16おまけ Gene17 犬小屋 →→→Gene17おまけ Gene18 隣部屋 →→→Gene18おまけ Gene19 母屋 →→→Gene19おまけ Gene20 楽屋 →→→Gene20おまけ Gene21 特撮屋 →→→Gene21おまけ Gene22 田ミ屋 →→→Gene22おまけ Gene23 エチゴ屋 →→→Gene23おまけ Gene24 酒屋 →→→Gene24おまけ Gene25 風呂屋 →→→Gene25おまけ Gene26 当たり屋 →→→Gene26おまけ Gene27 たま屋 *えろいのかもしれぬ(え) →→→Gene27おまけ Gene28 鍛冶屋 →ホワイトファング・ハウリングソウルからあのヒトが! →→→Gene28おまけ Gene29 空き部屋 →→→Gene29おまけ 各所で小ネタに以下の作品の名前が使われております事をここでお詫びしておきます。 Mighty Magic、神姫狩人、ねここの飼い方、HOBBY LIFE,HOBBY SHOP、岡島士郎と愉快な神姫達、妄想神姫、戦うことを忘れた武装神姫、剣は紅い花の誇り、神姫ちゃんは何歳ですか? せつなの武装神姫 2036の風 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 神姫長屋の住人達。 ホワイトファング・ハウリングソウル Gene Less本編 G・L《Gender Less》 コメントがありましたらこちらに。アンコール、ネタリク等も受け付けております 名前 コメント お気に召した奴らの登場話に投票でもしてやってください 選択肢 投票 Gene1解体屋 (5) Gene2花屋 (0) Gene3床屋 (2) Gene4本屋 (1) Gene5地上げ屋 (0) Gene6靴屋 (0) Gene7とうふ屋 (1) Gene8ノミ屋 (3) Gene9餅屋 (3) Gene10オケ屋 (0) Gene11テキ屋 (0) Gene12服屋 (0) Gene13お好み焼き屋 (1) Gene14護り屋 (0) Gene15殺し屋 (0) Gene16浜茶屋 (0) Gene17犬小屋 (0) Gene18隣部屋 (2) Gene19母屋 (0) Gene20楽屋 (1) Gene21特撮屋 (0) Gene22田ミ屋 (1) Gene23エチゴ屋 (0) Gene24酒屋 (5) Gene25風呂屋 (2) Gene26当たり屋 (1) Gene27たま屋 (0) Gene28鍛冶屋 (3) Gene29空き部屋 (1) - -
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ウサギのナミダ ACT 1-11 ◆ 久住菜々子は大学生である。 東京にある大学からの帰り、あのゲームセンターに寄るのは、一度最寄り駅を行き過ぎなくてはならない。 また、武装神姫を常に持ち歩いているわけではない。 だから、あのゲームセンターに行くのは、週末にしていた。 だが、今日は違う。 朝からミスティを連れ、装備の入ったアタッシュケースを持って、大学に行った。 はやる気持ちを抑えて、大学の授業をみっちりと受け、講義が終わったらダッシュで駅まで。 それでもゲームセンターにたどり着いたのは、夕方も遅くなってからだった。 今日は金曜日。 繁華街は、翌日休みの気楽さで、週末の夜を楽しもうと、すでに多くの人が繰り出している。 浮ついた世間の雰囲気とは逆に、菜々子の心は緊張していた。 ゲームセンターにつくと、すぐに武装神姫のコーナーへと向かう。 平日とはいえ、金曜日の夕方。休日に劣らず盛況である。 壁際に、見知った顔を見つけた。 大城大介だ。 雑誌を片手に、なにやら難しい顔で、バトルロンドの筐体を睨んでいる。 「大城くん、こんばんは」 「おお、菜々子ちゃん!」 振り向いた男の顔がぱっと明るくなった。わかりやすい。 「もう、来ないかと思ってたぜ……」 「うん……迷ってたんだけど……やっぱり、ね」 微笑みながら頷く大城。 そんな彼に、菜々子は片手を突き出した。 「その雑誌……またティアが出てるんでしょう? 見せて」 「いや、あの……これは」 雑誌と菜々子を見比べながら、困った顔をする大城。 「刺激が強すぎるから……見ない方がいいんじゃ……」 なかなか雑誌を渡そうとしない大城を一瞬睨み、菜々子は物も言わずに雑誌をひったくった。 薄い雑誌をぱらぱらとめくる。 中ほどの袋とじに、目的の記事はあった。開封されている。 扉は写真の反転画像で、黒の背景に白のラインで女性の姿を形作っている。 「大反響アンコール! 淫乱神姫・獣欲のまぐわい」と、また奇妙な字体で貼り付けられていた。 菜々子には中身の想像がつかないタイトルだ。 意を決して、一枚目をめくる。 「……っ!!」 肩にいるミスティが息を飲む気配。 震える手で、二枚目をめくる。 次のページを目にした瞬間、菜々子は雑誌とミスティを大城に押しつけると、すごい勢いでお手洗いに駆け込んだ。 「だからいわんこっちゃない……」 半分あきれ気味に大城が呟いた。 確かに、あの内容なら、見るのを止める方が親切よね、とミスティも思う。 しばらくして、菜々子が戻ってきた。 顔面は蒼白。ハンカチを口元に押しつけている。身体は小刻みに震えている。 それでも菜々子は、また黙って、大城に片手を突き出した。 「いや、だから、やめといた方がいいって」 「わたし、決めたの……もう逃げないって。あの二人の力になるって。だから、どんなに辛くても、わたしはそれを見なくちゃいけないのよ」 大城はため息をつくと、雑誌とミスティを菜々子に手渡した。 ミスティを肩に乗せ、再び例の記事を開く。 今度は、さっきよりも冷静に見ることが出来る。 しかしまた身体が震えだした。 「……ひどい……」 怒りだ。怒りに身体が震える。 雑誌の中で、ティアは陵辱されていた。 よつんばいのティアの後ろからのしかかっているモノ。 人間じゃなかった。人型ですらなかった。 犬だ。 神姫サイズの犬型ロボットが、ティアの背後から覆い被さっている。 雑誌の中のティアは、苦悶と恍惚が入り交じった表情を浮かべていた。 写真を見ているだけで、胸が張り裂けそうになる。気が狂いそうになる。 ティアは……毎日、こんな仕打ちに耐えていたというの。 菜々子の耳に、笑い声が聞こえてきた。 少し離れたところで、数人の男達が同じ雑誌を見ている。同じページを開いている。 下卑た笑い声を上げ、ティアのことをあることないこと声高に話している。 みな見知った顔だった。このゲーセンの常連達だ。 だったら、知っているはずではないのか。ティアと貴樹がどんな戦いをしたのか。それを見てもまだ、そんなバカにしたことが口に出来るのか。 ミスティは憎しみすらこもった眼差しで、猥談に花を咲かせる男達をねめつけた。 「あいつら……ふざけやがって……」 憎々しげな呟きの主に目を転じると、それは虎実だった。 ミスティはちょっと驚いて、虎実を見つめた。 「あら……虎実はちがうの?」 「たりめーだろ! ティアと戦ったヤツにはわかるはずだ! こんなクソ雑誌の記事なんか……いまの二人に何の関係もねぇんだって!」 虎実はミスティを睨んだ。 「アンタもそうじゃないのかよ、ミスティ」 ミスティを見る虎実の目は、真剣だった。 いつもはミスティがからかったのを真に受けて、ただ怒った視線を向けてくるだけだ。 だが今日は違う。 眼差しの質が違う。 自分の確固たる信念の下に、相手の嘘を許さない、揺るぎない視線。 「わたし、初めてあなたに関心したわ」 「……どーゆー意味だ、それ」 「あなたと同じ意見、っていう意味よ」 ミスティは薄く笑いかけた。 「虎実、わたしたち、協力しない? ティアが戻ってこれるように力を尽くすの」 「だったら……一時休戦すっか?……ティアのために」 「いいわ。これからわたしたちは仲間……戦友よ」 ミスティが握った拳の親指を立て、サインを出す。 虎実もサムアップして頷いた。 奇妙なシンパシーでつながった二人の神姫に、マスター達は顔を見合わせて、肩をすくめた。 そして、大城が、ちょっと難しい顔をして、言いにくそうに口を開く。 「先週末……遠野が来てな……日曜日に、ちょっと騒ぎになった」 「え? ……なにが、あったの」 日曜日の出来事を、大城はかいつまんで話した。 菜々子の顔がみるみる険しい表情になっていく。 「壁叩いて右手壊したって……あの、遠野くんが……!?」 にわかには信じがたい。 あの、いつもクールな雰囲気の遠野が感情を剥き出しにして自分を傷つけるなんて。 それほどまでに、彼は深く傷ついているのだ。 菜々子の想像よりも遙かに。 菜々子がうつむいて、思いを巡らせていたその時、 「よお、エトランゼ。珍しいな、平日の夕方に来るなんて」 男が声をかけてきた。 思わず睨みつけてしまったのは、タイミング的に仕方がないことと思う。 むしろ、空気を読め、と菜々子は言いたかった。 声をかけてきたのは、ヘルハウンドのマスターだった。 一緒に二人の男がいる。 いずれも見知った顔だった。 「三強が揃い踏み……ね。何か用?」 菜々子ははっきり言って、三強のマスター達が嫌いだった。 『ヘルハウンド・ハウリング』の二つ名を持つハウリン・タイプのマスターは、坊主頭で日焼け肌の男だ。 三人の中では一番の常識人だが、自分が三強の一角であることを時々鼻にかけることがある。 後ろの男達の一人は、ウェスペリオー・タイプのカスタム機のマスター。 『ブラッディ・ワイバーン』と呼ばれている。 背がひょろひょろ高く、薄気味悪い顔色。 困ったことに菜々子に気があるらしく、しょっちゅう言い寄ってくる。 このゲーセンに来た頃、「バトルに勝ったらデート」を無理矢理承諾させられた。 もちろんバトルは菜々子が勝ったが、その後の対戦者も次々に同じ条件を申し入れてきて、断れなくなった。 それを見た遠野に釘を刺されたのは苦い思い出だ。 遠野くんがわたしを、そんなに軽い女だと思っていたらどうするつもりなのかと、この男と顔を合わせるたびに腹が立つ。 もう一人は、年下の高校生だ。 三強の一角だけあってバトルは強いのだが、とにかく「俺強い」と主張する。 バトルに勝てば、相手を見下し、自分の強さをえらそうに自慢する。 逆に負けると、今回チョイスした武装、自分の神姫のせいにして、やっぱり対戦相手を見下す。 ミスティに言わせれば、最低の武装神姫プレイヤーだ。 そんな彼の神姫はエスパディア・タイプ。基本ユニットと素体はエスパディアだが、武装は種類も搭載量も毎回違う。 対戦相手に合わせてチョイスしているわけでも、武装を試しているわけでもないのだ。 あまりにも毎回武装が違うので、『玉虫色のエスパディア』と呼ばれていた。 本人は意味をよく分かっていないらしい。 三強を代表して、ヘルハウンドのマスターが口を開く。 「エトランゼを誘いに来た。……俺達の仲間に入らないか?」 「……あなた達の……?」 「強いヤツは強い者同士が仲間になった方がいい。情報交換や練習、戦術の研究もその方が効率的だ。 あんたの実力は、俺達三強も認めるところだ。だから誘いに来た。 それに……」 ヘルハウンドが一瞬口ごもったのを引き継いで、ワイバーンのマスターが口を挟んだ。 「それに、ティアのマスターも、もう来ないしさぁ! り、陸戦トリオも解散だよねぇ!」 ワイバーンのマスターは嬉しそうだ。 菜々子に気があるワイバーンにしてみれば、いつも菜々子のそばにいる遠野は、目の上のタンコブだったのだろう。 さらに、玉虫色が言った。 「てか、もうアイツはここに来られねーよな。あんな風に発狂しちゃったんじゃさ! あはははは!」 「……は、はっきょう……って……?」 「ああ、ティアのマスター、こないだの日曜日にキレて暴れ出したんだよ。 『悪いのは全部人間だ』とか言っちゃってさ。 他の男にヤられた神姫使っておいて、そんなこと言うなんてさ! 笑っちゃうよね! あはははははは!!」 「おい……言い過ぎだぞ」 さすがに、ヘルハウンドのマスターが、玉虫色のマスターの態度をとがめた。 菜々子は、そっと、唇を噛んだ。 あの遠野くんが、そこまで怒ったの。 あそこまで真っ直ぐに神姫と向き合っている人を。 あなたたち、そこまで彼を追い詰めたの。 菜々子は、肩にいるミスティにだけ聞こえる声で、ささやいた。 「ねえ……この悔しさって、遠野くんの悔しさに比べたらどれくらいかな」 「いいとこ、百四十四分の一くらいじゃない?」 「ずいぶんキリのいい数字ね……」 もう、許せない。 意を決して、うつむけていた顔を上げる。 菜々子は三強の男達を鋭く見据えた。 「わかったわ……それじゃあ、わたしとバトルして、あなた達が勝ったら、仲間になってもいい」 「なに?」 「わたしだって、組むなら強い人と組みたいもの。あなた達の実力、もう一度見せてもらいたいわ」 「そうか……わかった、今からバトルしよう。それでいいか?」 「ええ」 「対戦する順番は……あんたが指名してくれるのがいいかな……」 「何言ってるの?」 ヘルハウンドのマスターの言葉を、菜々子は鋭く遮った。 「違うわよ。『あなたたち』って言ったでしょう?」 武装神姫コーナーの奥、複数人数同時プレイ可能な大型の対戦筐体を指さした。 「スリー・オン・ワン。三人まとめてお相手するわ。準備して」 次へ> トップページに戻る
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「しかしフォートブラッグの外骨格に、そのような機能が搭載されていたとは驚嘆すべき事実です」 「それはもう、俺に良し、お前に良し、皆に良しの魂を引き継ぐ武装神姫ですから」 「なるほど、あなたに対し出力マイクから神姫物質を排出する前と後には『サー』……いえ、『マム』とつけるべきでしょうね」 「ところでドーナツ食べますか?」 「この流れでそれを頂くと、同僚が連帯責任で腕立て伏せをする目の前で食べないといけなくなりそうなので、お気持ちだけ頂いてご遠慮申し上げます」 「そうですか。 ところで話を戻しまして、フォートブラッグのバックパックで正座をするのが邪道なら、逆に考えてみてはどうでしょう?」 「と、仰ると?」 「バックパックで正座をするのではなく、バックパックを用いて正座及び土下座をさせるというのは?」 「土下座でなく座礼です。 ……なるほど、矯正装置として活用するのですね」 「むしろ強制装置で」 「焼いた鉄板の上で?」 「10秒は必要ですね」 「基本ですよね」 「今度は料理のお話でしょうかねぇ?」 「違うと思う、絶対違うと思う!」 ○参考資料:「フルメタルジャケット」「賭博黙示録カイジ」 <戻る> <進む> <目次> 犬子さんの土下座ライフ。 クラブハンド・フォートブラッグ
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概要 神姫ピックアップ 神姫お迎え 武装購入 アップデート履歴 コメント 概要 神姫や武装などを購入する事が出来る機能。 稼動当初はバトル終了後に1体または5体の神姫をお迎え出来るだけだったが、シーズン2となってからは神姫ハウス画面のタッチメニューから行ける様になり、機能自体もかなり向上した。 神姫ピックアップ シーズン2移行後、2023/02/13のアプデで実装された機能。 「神姫実装数に対してあまりにも神姫ショップ内のお迎え確率が渋すぎる」 「偶にピックアップが開催されても期間が短過ぎて実質意味がない」 といった声は稼動当初からSNS上にて度々寄せられていたものだが、おそらくはこれらを受けての実装となる。 対象となる神姫は一度につき3種。一定期間(大体半月程度)で変更される。 ちなみにリストを見れば一目瞭然だが、2023年7月末までは同メーカーあるいは準同型機(リデコやカラバリ)にあたる神姫が続けて登用されやすい傾向にあったが、それらに当てはまらない神姫達のピックアップが同年8月上旬になされて以後、対象神姫はその都度シャッフルされるようになった様子。 + 開催期間と対象神姫はこちら 開催年 開催日程 対象神姫 2023 2/13~2/27 アーンヴァル・アーク・アルトレーネ 2/27~3/13 ストラーフ・イーダ・アルトアイネス 3/13~3/27 ジルダリア・ウェルクストラ・ラプティアス 3/27~4/10 ジュビジー・ヴァローナ・アーティル 4/10~4/24 エウクランテ・フブキ・オールベルン 4/24~5/8 イーアネイラ・ミズキ・ジールベルン 5/8~5/22 ヴァッフェバニー・ムルメルティア・紗羅檀 5/22~6/5 ヴァッフェドルフィン・飛鳥・ベイビーラズ 6/5~6/19 アーンヴァルMk.2・サイフォス・ブライトフェザー 6/19~7/3 ストラーフMk.2・紅緒・ハーモニーグレイス 7/3~7/17 アーンヴァルMk.2テンペスタ・ツガル・ガブリーヌ 7/17~7/31 ストラーフMk.2ラヴィーナ・フォートブラッグ・蓮華 7/31~8/14 エーデルワイス・シュメッターリング・レイシス 8/14~8/28 アルトレーネ・イーアネイラ・ストラーフMk.2 8/28~9/11 アーク・ジルダリア・飛鳥 9/13~9/26 ジュビジー・エウクランテ・紗羅檀 9/26~10/10 ジールベルン・蓮華・ハウリン 10/10~10/24 ガブリーヌ・シュメッターリング・ジルダリアB 10/24~11/7 ストラーフ・ヴァッフェドルフィン・ハーモニーグレイス 11/7~11/21 イーダ・フブキ・マオチャオ 11/21~12/5 紅緒・レイシス・マリーセレス 12/5~12/19 アルトアイネス・ヴァッフェバニー・アーンヴァルMk.2 12/19~ アーンヴァル・ラプティアス・ツガル 2024 ~1/2 1/2~1/16 ムルメルティア・フォートブラッグ・エーデルワイス 1/16~1/30 ヴァローナ・オールベルン・ベイビーラズ 1/30~2/13 ウェルクストラ・アーティル・ブライトフェザー 2/13~2/27 ミズキ・アーンヴァルMk.2テンペスタ・ストラーフMk.2ラヴィーナ 2/27~? (ピックアップなし) なお2024/02末からは実装を外されている状況だが、果たして……? 神姫お迎え 1クレジット1体/5クレジット5体のお迎えとなる点は稼動当初と同じだが、バトル後1回だけ出来た従前と違って何度でも行う事が出来るようになった。 ただし、5体お迎え時にあった好感度アップアイテム(ヂェリカン)ボーナスと、ついでにSSS.てんちゃんの出番はなくなった。 また(おそらくは容量問題対策によるものか)お迎えされた神姫達の身振りもなくなり、ただ棒立ちで台詞を言う(ボイスは残置)のみとなっている。 (↑)その後のアプデによって、シーズン1当時の身振りは無事復活した。 なおUR神姫のみ、お迎え時の演出がより派手になっている。ゲーミングクレイドル 今回からはお迎え時にレアリティ・個体値も判明するようになったが、サイズと6V個体の識別についてはお迎えした神姫を「再読み込み」機能で読み込むか、従前のようにカードコネクトでカード化する必要がある(その前に「カード管理」画面で当該神姫のカード化を選択しておく事)。 そして言うまでもない事だが、ガチャり過ぎには要注意。 武装購入 1クレジット10個、3クレジット30個のどちらかを選べる。 後者の場合、ボーナスとして神姫ハウスにいる神姫の固有武装6個を貰う事が出来るようになった。 従来のジェムバトル時に出現していたコンテナが、シーズン2では出現しなくなった事に対する救済と思われる。 特定神姫の装備を集めたい場合、神姫ハウス内の神姫の種類を統一してガチャればいいという事になる。 従前のようにジェムバトル上のコンテナ争奪戦を経る事がないため確実に入手出来る(ついでに当時より1個増えた)のは大きいが、こちらもガチャり過ぎに要注意。 なお、前述「神姫お迎え」画面から外されたSSS.てんちゃんの姿は、こちらで見る事が出来る。 アップデート履歴 日時:2023.01.24 内容:シーズン2移行に伴い実装 日時:2023.02.13 内容:「神姫ピックアップ」機能実装 コメント 名前 コメント
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あらすじ 休職中の俺に手渡された現物支給のボーナス、巷で大流行の武装神姫だった。 馬鹿な弟子だがこうなりゃヤケだ、咲かせてみせよう悪の華。 [最終更新日:1月27日(明日の為に、其の13!(後編))] 明日の為に、其の1! 明日の為に、其の2! 明日の為に、其の3! 明日の為に、其の4! 明日の為に、其の5! 明日の為に、其の6! 明日の為に、其の7!(前編) 明日の為に、其の7!(後編) 明日の為に、其の8!(前編) 明日の為に、其の8!(後編) 明日の為に、其の9!(前編) 明日の為に、其の9!(後編) 明日の為に、其の10! ※お食事中の方注意 明日の為に、其の11! 明日の為に、其の12! 明日の為に、其の13!(前編) 明日の為に、其の13!(後編) 閑話休題:パカパカ 閑話休題:白濁液 閑話休題:其の8、後日譚 閑話休題:とある種子の記憶 馬鹿一覧 合計: - 今日: - 昨日: - 名前 コメント
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SHINKI/NEAR TO YOU 良い子のポニーお子様劇場・その4 『セントウノヒ』(前編) >>>>> そこはまるで廃墟のようだった。 乾いた土がむき出しになった街道の両脇を、木造りの古びた家々が並んでいる。アメリカ西部開拓時代をテーマにした映画にでも登場しそうな古ぼけた宿場町。 打ち捨てられまさにゴーストタウンと化した街並みの間を、これまた映画のワンシーンよろしくダンブルウィード(西部劇によく出てくる、あのコロコロ転がるヤツだ)が風に吹かれ勢いよく転がっていった。 突如街に轟音が響く。 それと同時に、銃弾の雨に降られ穴だらけとなった廃屋から白い影が飛び出した。 蒼いポニーテールをなびかせ、白い装甲を身にまとった少女――武装神姫のゼリスだ。 「ゼリスッ、大丈夫かっ!?」 銃弾に吹き飛ぶ廃屋の木片をかいくぐり辛くも窮地から脱出する相棒を案じて、シュンは思わず叫ぶ。 「問題ありません。この程度の銃弾ならそよ風のようなものです」 軽口を返す相棒に安堵を抱きつつ、シュンは倒壊する建物の向うに立つ対戦相手の神姫を睨んだ。 砲台型MMSフォートブラッグタイプ。砲台の名が記す通り、火力に優れ射撃戦に特化したスペックを持つ武装神姫だ。 フォートブラッグタイプは手にしたガトリング砲アイゼンイーゲルを構え直し、廃屋の合間を駆けるゼリスに向け再び銃弾の嵐を見舞う。 「そらそらそらぁっ! 逃げてばかりじゃ勝てないよ?」 フォートブラッグは挑発的な笑みを浮かべながら、ガトリング砲を掃射する。口惜しいが相手の言うとおり、こちらは戦闘開始から防戦一方だ。まず火力が違いすぎる。 「シュン、焦ってはいけません。冷静さを欠いてしまっては打開できるものもできなくなります」 一旦距離をとり物陰に身を隠したゼリスが、手にした自動拳銃のマガジンを確かめながらシュンをたしなめる。 「分かってるよ!」 ゼリスに諭されて、シュンは大きく深呼吸した。相手は立て続けの攻勢に気を良くしたのか、すぐに追ってこない。侮られているのかもしれないが、仕切り直すには都合がいい。 状況を整理する。 相手とこちらの武装の差。このフィールドの特性。――何か利用できるものはないか? しばし逡巡したあと、シュンはゼリスに指示を出す。コクリと頷いたゼリスは、それまで隠れていた廃屋の影からタウンの中央を走る街路へと身を躍らせた。 隠れる先を注意深く探っていたフォートブラッグは、訝しげに突如大胆に姿を現した獲物に銃口を向ける。 「どうしたの? こそこそ隠れるのは諦めたのかしら?」 「さあ、どうでしょう?」 両者は街路の真ん中に立ち、しばし睨みあう。互いに攻撃に移るための機をうかがう様は、まさに西部劇のワンシーン。 次の瞬間、ゼリスは大きく横に飛びながら自動拳銃を抜ぬく。と、同時にフォートブラッグのガトリング砲が吠える。 降り注ぐ銃弾が大地を舐める。砂埃が舞い上がる中、ふたつの影が疾駆する。 街路を、宙を、廃墟の壁を、縦横に駆けながらゼリスは相手に向かって構えると同時の即準速射。発砲と共に大きく跳躍し、離脱。それを追いかけるようにフォートブラッグの掃射が、街路の土を抉り廃墟の壁を吹き飛ばす。 「あははははっ、カクレンボの次は鬼ごっこ!?」 ジグザグに街を駆けながら、ゼリスは暴風のようなガトリング砲の火力に押され後退を余儀なくされる。それを追いかけながら、更なる火力でもって押し潰そうとするフォートブラッグ。 「!?」 火線がやむ。巻き起こる埃が風に流された場所は、ゴーストタウンの中心に位置する広場だった。視界の開けた土地は街を東西に貫くT字路の交差点となっている。広場の北側は教会を模しているのだろうか。屋根に大きな十字架を抱いた他よりも一回り大きな建物が鎮座していた。 さて、標的が逃げたのは三叉路のいずれか? フォートドラッグは三方に視界を巡らせながら、教会を背にガトリング砲を構え直す。 「往生際が悪いわよ。さっさと出てきなさ――」 ふっ――と。急に視界が陰る。きょとんとしたフォートブラッグは何事かと空を仰いだ。 「――――っ!?」 天から十字の影が降ってきた。教会の上に祭られていた十字架だと認識するころには、それは無防備に仰ぎ見るフォートブラッグを直撃していた。 ――――ごつんっ! ふぎゃっ! と十字架に押し潰されたフォートブラッグの傍らに、教会の屋上からゼリスが繰る繰ると宙返りしながら舞い降りる。 ゼリスに突きつけられた銃口に、十字架の下でジタバタともがいていたフォートブラッグはタラリと汗を流しながら「サプレンダー(参った)」を宣言したのだった。 「三叉路に逃げ込んだと見せかけて、死角になる頭上から強襲! なかなかいい作戦だっただろ?」 シュンは下りエスカレータをウキウキと降りながら、パートナーに同意を求める。 彼の頭の上にちょこんと座りこんでいるゼリスは、「ふむ」と小首を傾げた。 「敵の火力に主導権を握られてしまったことを逆手にとって、追いつめられるふりをしながら相手を誘導し地の利を生かして隙をつく――発想そのものは悪くありませんが、リスクの高い戦術でした」 「……うっ」 「あのフォートブラッグの射撃はただの乱射のようで、こちらの動きを絶えず的確に捕捉していましたからね。運が悪ければ誘導する途中で被弾し、そのまま押し切られていたかもしれません。今回はうまくいきましたが、毎回このような策が成功することはないでしょう」 ……手厳しい評価だ。身内だからって容赦なさすぎじゃありませんか、ゼリスさん? とは思うものの、バトルの興奮から頭を冷やして振り返ってみればその指摘はいちいちもっともだ。 ゼリスと出会ってからすでに2ヵ月。神姫センターのバトルや指示にも随分慣れてきたと思うが、優秀なパートナーに追いつくにはまだまだらしい。 ウキウキステップから肩を落としたションボリ歩きに変わったシュンを、すかさずゼリスがデコピンで叱咤する。 「しっかりして下さい。過程はどうあれ勝ったものが俯いているべきではありません。敗者に対し敬意をもって応えるためにも、勝者は胸を張るべきです」 額を押さえるシュンの瞳に、自分を覗き込むエメラルドの瞳が映った。 「それに今回の作戦――こう着状態をくつがえすという点では悪くありませんでした。相手の火力に攻めあぐねていたのは事実ですし……あの場でとっさに考えたにしては、ベストとは言えませんが及第点といったところでしょうね」 あくまで淡々と、ゼリスは語る。 「……ひょっとして、誉めてくれてるのか?」 「……? 私はただ良い点は良い、悪い点は悪いと率直な感想を述べているだけですよ」 そう言い終えるとゼリスは再び彼女的定位置であるシュンの頭の頂上へと戻る。元よりゼリスは機の利いた世辞や慰めをするようなヤツじゃない。シュンのパートナーである武装神姫は――呆れるぐらい正直で真っすぐなヤツなのだ。 シュンはエスカレータの最後の段を勢いよく蹴ると、胸を張って神姫センターを後にした。 今日の失敗は今日の失敗。省みて明日の糧にすればいい。歩みは遅くとも、一歩ずつ確実に前に進んでいけばいいのだ。 * 「……これは失策でしたね」 「……面目ない」 嘆息するゼリスを肩に、シュンは恨めしそうに道路を見つめた。 雨だった。 それも大雨だ。 神姫センターを出るあたりから、空模様が怪しくなり出し――そこからポツポツ降り始めた滴が大粒の雨となるのはあっという間だった。 「駅に着く前にこんなに強くなるとなあ……」 急遽逃げ込んだ店先の軒下でシュンがしみじみ呟けば、ゼリスが「私は忠告しましたよ」と不満げに返す。 確かに神姫センターを出るときに、ゼリスから今日は一部で夕立の予報があったこと、雨具の用意がないことなどを指摘されて「しばし様子をみてはどうでしょう」とか言われてたけどさ。だからってこんなにいきなり土砂降りになるとは思わないだろう? 「その結果が駅にも辿り着けず立ち往生では、しかたありません」 …………おっしゃる通りです。 さて、どうしよう。もうすぐ6月も終わりだってのにずぶ濡れで帰るのも嫌だしなあ。ともかく駅まで行けば、あとは妹のユウにでもPDA(ケータイ)で連絡を取って傘を持ってきてもらえばいいんだけれど。それともこれだけ雨の降りが強ければ、少し待てば止みそうにも思えるし―― 軒下にポツンと立ちつくしながら、あれこれ思案していると視界の端を黒い影がよぎった。どうやらシュンと同じように傘を忘れた人間が雨宿りに駆けこんできたらしい。 厳つい体に裾の長い学生服――いわゆる長ランをまとった大男だ。 ん? 厳つい長ランの大男? 最近、そんな人物にどこかで会ったような…… 「うーむ。急に降ってくるとは困ったのう」 「イエス・サー。この状況ではしばらく静観するしかないであります」 忌々しげに空を見つめる長ラン男に、そのポケットから顔を出した神姫が応じる。 「ああっ!?」 「何っ?」 「むうっ?」 思わず奇声を発して驚いたシュンに、向うのふたりもこちらに気付く。 「これはこれは……奇妙な縁ですね」 ただ一人平然としているゼリスが、呑気に呟いた。しかし他の三人はあっけに取られてまだ固まったままだ。 番長治(バン・チョウジ)とその武装神姫ベガ――シュンとゼリスが初めて神姫センターで戦った相手だ。ひょんなことからベガと武装神姫バトルをすることになったゼリスは、危ういながらも初勝利を上げることができたのだが……その相手とまさかこんなところで再開するとは思いもしなかった。 ……気まずい、どうしよう。 出会いが出会いだけに気軽に世間話をするような相手でもないし(そもそも番長治とベガのふたりとは一度バトルしただけ。よく知った相手でもない)、かといって雨の降りは強いままで立ち去ることもできない。しばらくは狭い軒下で肩を並べるしかない。 「…………」 「…………」 向うも同じなのか、番長治は低く唸ったきり黙りこんでいる。最初に会ったときのようにケンカを吹っかけてくることは無いようでホッとするものの、居心地の悪さは変わらない。 ベガもこちらを睨みはするものの、マスター同様黙ったままだ。 「お久しぶりですね、そちらは……むぎゅっ」 三者沈黙。そのなかでごく自然に話しかけようとするゼリスの口を、シュンはとっさにふさぐ。 (お前、少しは空気読めよ!) (失敬な、私はごく普通に挨拶をしようとしただけではありませんか。弾圧です、言論統制です。自由は死なせずですよ) 自由の前に僕がこの場の空気に耐えられなくて死んじゃうよ! ゼリスのマイペースぶりに辟易しつつ、隣をうかがう。 番長治が何かをしゃべろうと口を開いた、その時――横なぐりの水飛沫にいきなり視界を遮られた。 「あっ!?」 そう叫んだのは誰の声だったか。通り過ぎる自動車のエンジン音に、シュンは一瞬遅れて何が起ったのか理解した。排水溝が詰まっているのか、もともと路盤の施工が悪いのか。道路沿いに大きく溜まった雨水を自動車のタイヤが盛大に跳ね上げたのだ。 気がつけばシュンもゼリスも、さらに番長治とベガまでびしょ濡れになっていた。 「くっくっく……」 ベガが低く笑う。 「サーと私に泥水を被せるとは……民間人と言えど、ただではすまさんぞ! 軍法会議にかけてやる!」 いや、軍法会議ってどこの? 激昂するベガに、ゼリスが静かに応じる。 「車種及びボディーカラー、ナンバープレートとも全て把握しました。目標の追跡は可能です」 ゼリスの目がキラリと光る。 「でかしたぞ、小娘! まずはこちらでヤツを確保し、軍隊のルールを骨の髄まで叩きこんでくれる!」 「ええ。その際は不埒者に猛省を促すため、私自らの手でデコピン百回の刑に処して差し上げましょう」 妖しいアイコンタクトを交えて、ゼリスとベガが不敵に笑う。 「……って、待て待て待てっ! お前ら何するつもりだっ」 「何をと申されましても。シュン、泥はね運転は立派な道路交通法違反であり、処罰の対象ですよ。罪を犯した者が然るべき罰則を受けるのは当然ではありませんか?」 そうなんだ、知らなかったな。見れば番長治とベガも「なるほど」といった顔をしている。いや、じゃあベガはさっきまで知らないで過激なこと言ってたのか。 「ただし……道路交通法違反は現行犯での処罰が原則ですから、この場合状況証拠だけでは犯人は無罪放免ともなりかねません。ここはやはり……」 「我々の手で私刑にするということだな!」 互いにマスターの懐から飛び出したゼリスとベガがガッチーンッと腕を組み合った。おいこら、変な形で意気投合するな! 「ふむ……シュンはこのまま泣き寝入りをしてもよいのですか?」 「敵を前にして逃亡するなど、軍の恥さらしだぞ小僧!」 だって僕は軍人じゃないし……。あ~、もう! ふたりして迫るな。番長治も何か言ってくれよ。 「しかしのう、ベガよ。今から追いかけても車には追い付かりゃせんぞ。この雨もあるしのう」 意外に冷静なその言葉に、一同は空を見上げた。 空を覆う曇天には切れ目も見えず、雨脚は弱まる気配がない。シンと静まると同時に、それまで忘れていた寒気を急に思いだした。 ――ハックションッ 盛大なくしゃみと共にシュンは体をブルッと震わせた。ゼリスが心配そうな顔で覗き込んでくる。 そういえばずぶ濡れなんだった。これは不味いな。ベガや番長治たちとコントしてる場合じゃない。このままだと風邪を引くのは確実だ。 ふと。同じくずぶ濡れの番長治が「フンッ」と大きく鼻を鳴らすと、くるりとシュンに向き直った。 「お前、ちっくとワシにつき合わんか?」 思わず身構えたシュンは、耳にした意外な言葉にぽかんとした。 『セントウノヒ』(前編)良い子のポニーお子様劇場・その4//fin 戻る
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武装神姫 鳳凰カップ 実況生中継! 「みなさん、こんにちわ。この番組の実況を務めさせて頂きます、アナウンサーの花菱 燕(ツバメ)です」 二日目の午前十時、俺は昨日まで予選会場だった場所に入れ替わるようにして設置された特設巨大スタジアムの放送席にいる 観客の最大収容人数は一万五千人、中継用のテレビカメラ30台…… もうアホだ、このグループ ゲンナリしつつもやはり解説者の仕事はやらざるをえず、ノアだけを連れて決勝トーナメント開会セレモ二ーのため勢揃いしている予選を勝ち抜いてきた16組を放送席から眺めていた 葉月のヤツ…滅茶苦茶緊張してるよ… 逆にアルティはドッシリ構えてやがる さすが元八相、大舞台には強いってか ミコとユーナはどこかって? 全国放送の番組だ、流石にミコとユーナを連れての大騒ぎはまずいだろうという事で二人は香憐ねぇに預けておいた ちなみに俺の横にいるアナウンサーさんは…もうなんとなくわかるよな? 燕さんは昴の母親なんだわ 花菱財閥の令嬢なのだが、アナウンサーの道に憧れてからは夫である昴の親父さんに財閥を任せ、のびのびと天職ともいえるフリーアナウンサーの仕事をやっている そんでもって御袋と桜さんの二人と同じく幼馴染 三人揃えば元祖かしましシスターズ!! …姉妹ではないがそれほど仲が良いということだ 「それでは今日の解説者の方をご紹介します。まずは武装神姫公式リーグ、公式ランキング13位、ファーストランカーの橘 明人さんと『緑色のケルベロス』ことパートナーのノアールさん。そしてそのお隣が同じく武装神姫公式リーグ、公式ランキング16位、ファーストランカーの綾川 千紗都さんと『黒き狼』ことパートナーの冥夜さんのお二人です。みなさま、今日はよろしくお願いします」 「よろしくおねがいします」 「よろしくおねがいします」 観客席から拍手をもらう 綾川さんは俺のランカー仲間でもある 多分御袋はそこら辺も知ってて彼女を選んだんだろうな 彼女の神姫は黒いアーンヴァルの冥夜 ノアと同じく刃物使いで『黒き狼』の二つ名を持っている 「今回の鳳凰カップ〈春の陣〉はかなりのハイレベルとの噂ですが橘さん、そこのところいかがお考えですか?」 「はい。花菱さんの仰るとおり、今回の参加者は予選脱落者を含めて非常にハイレベルとなっています。『黒衣の戦乙女』や『白い翼の悪魔』、さらには『鋼帝』に『剣の舞姫』、『弾丸神姫』、『クイントス』、『蒼天の旋姫』など、多くの名の知れた神姫が集いましたからね…」 「鶴畑 興紀選手も参加していますし…これはなかなか見られない好カードのバトルとなりそうですよね。綾川さんは注目されている選手はいらっしゃいますか?」 「私は……しいてお名前を上げるとすればAグループ代表のアルティ・フォレスト選手&ミュリエル選手でしょうか」 俺は綾川さんの言葉にぎくりとする 「彼女達は米国リーグで名をはせた実力者と存じています。ミュリエル選手はファーストの神姫にも劣らないとかで…」 そのことは観奈ちゃんから教えてもらっていたのであえて触れなかったのだが… あいつが騒がれたり注目されることで面倒なことになりかねないしさぁ… ちらりと下にいるアルに目をやれば「…何故私のことに触れなかったんだ」といわんばかりにこっちを凝視していた えぇい、この際見なかったことにしようと目線を横に逸らすとニコニコしながら俺を見ている綾川さんと目が合った それにしても…おかしいな…確か彼女には俺とアルの関係を教えてはいなかったと思うんだが… 「綾川さんは去年おこなわれた第三回大会、二度目の〈春の陣〉の優勝者ということですが…」 ええ? そうだったの? 俺、初耳なんだけど… 「はい、この大会は私にとって思い出深い大会なのですが…優勝した後の大変さが身に沁みましたね」 「と、もうしますと?」 「去年の大会からこの子が『黒き狼』なんて言われ出して、挑戦者が後を絶たなかったんですよ。橘さんのノアールちゃんみたいに実力があれば対処できたかもしれませんが、私達はホントに大変でした;」 少し困ったような笑顔で微笑む綾川さん 「つまり、この大会の知名度がどれほど高いかというわけですね…。さぁ、今大会からも未来の超有名神姫が誕生するのでしょうか!? 間もなく開会セレモニーが始まろうとしております!!」 燕さんがそういい終わるとスタジアムの横から屋根が出現し始める えぇ!? このスタジアムって特設のくせに開閉ドーム式なのか!? やっぱアホだろこのグループ!! 屋根が閉まりきり、スタジアムの中は真っ暗闇に包まれた この後はジジイによる主催者挨拶である (なんとなく頭の中で『一寸先は闇』って諺が浮かんできたんだが…俺ってネガティブ?) (安心してくださいご主人様、私もですから…) ノアと小声で話していると、スタジアム中央に“カッ!”と一筋のスポットライトが輝く その光の真ん中にはジジイの姿が………って、オイ 『れでぃ~~すえんどじぇんとるめん!!ようこそ盛大なる戦姫の祭りへ』 なんか椅子に座って足組んでるよ… 赤いスーツ姿で右目には黒い眼帯だしよ… おもいっきりアレじゃねぇか… 『さて皆さん、今ここに集いしは過酷な試練を超えた十六組の小さな姫とそのパートナー達であります。まずは苦難の道を勝ち抜いた彼らに賞賛の言葉を送りたいと思います…』 あああああああああ…頼むから全国ネットでアホな姿はさらすんじゃねぇぞ!? アンタ代表なんだからな? 鳳条院のトップなんだからな? 『しかし、彼ら彼女らに待ち構えるは今までよりもさらに厳しい王者への道。己の名を広き世界へ轟かせる勝鬨を上げるものは誰なのか、しかと彼女らの放つ熱き輝きを目に焼き付けて欲しい。諸君に『五色の翼の杯』……聖杯の加護があらんことを……』 左手をまげて礼式風の御辞儀をする爺さん 流石のジジイもなんとかちゃんとした場だと言うことはわきまえ… 『それでは皆さんご一緒に!! 武装神姫バトル! れでぃ~~~~っ……』 『ゴーーーーーーー!!!!』 ガツン! と勢いを殺せないまま実況席のテーブルに額をぶつけてしまった俺とノア 燕さんも綾川さんと冥夜もひっくるめて会場全員で怒涛の開幕となった もしかして毎回コレをやってるのかあのジジイ…… やっぱアホだわこのグループ!! 「さて、続いては決勝リーグのルール説明へと参りましょう。決勝リーグもバトル方式は予選と同じくバーチャルバトルです。しかし、通常のものよりもバージョンアップしている超大型V.B.B.S.筺体を使用します」 この大型V.B.B.S.筺体はフィールド自体の大きさはリアルバトルで使用するフィールドほどの大きさだ ようするに、リアルバトルにできるだけ近いバーチャルバトルということだな 「会場の皆様や視聴者の方々には私達の放送席の向かい側の巨大スクリーンより緊迫感のある白熱したバトルをご覧頂けます」 ちなみにバトル中の両オーナーは位置的に巨大モニターが見れなくなっている 自分の神姫が何処にいるのか相手にばれないように、また、相手の神姫がどこに隠れているのかわからないようになっているんだ 「鳳凰杯は第一回戦の八試合を午前の部とし、そこでの勝者八名による再抽選をおこないます。その後、途中休憩を挟んでから残りの午後の部に移ります。以上で説明の方を終わらせていただきまして、第一試合の方に参りましょう…」 またしてもライトが消えて暗闇に包まれてからしばらくすると、東西の両端に一本ずつ光の柱が一回戦の対戦者達を照らし出す 「まずは西方、虎門よりAグループの覇者、アルティ・フォレスト選手とミュリエル選手! 彼女らに対しますはBグループを制しました鳳条院 葉月選手とレイア選手、龍門より入場です!!」 お互いに大型V.B.B.S.筺体をはさんで目線をぶつける さっきまでの緊張は何処へやら、真剣そのものの顔はいつのも葉月ではない証… 「この試合の見所はいかがな所でしょうか橘さん」 見所って言ったってなぁ こちとらいきなり身内同士の対決なわけで…… とりあえず 「決勝リーグのオープニングを飾る一戦ですからね。双方悔いのないような良いバトルを期待しています」 ありきたりだがこんなもんだろ… 「御主人様…明人さんが悔いのないように頑張れって言ってます…」 「………」 「御主人様?」 「大丈夫だよ、レイア」 「は、はい……」 「私にはレイアがいてくれる…私はレイアを信じてる」 「御主人様……」 「あの時みたいに…力がなくて、ただ兄さんとアルティさんを…二人の関係を見ているだけしかできなかった私じゃない。今の私にはあなたがいる…お願いレイア…私に力を貸して!」 「………はいっ!!」 「実力的に言えばレイアは今だお前ほどではない…ただ、エリーがどんな厄介な物を渡したのか…そこが気になるな」 「……気にするの良くない…所詮、ぶっつけ勝負…」 「そうかもしれんがエリーは武装の特性にあうモニターを選ぶだろ。お前だって何回か使っただけで《ライトオリジン》や《レフトアイアン》を使いこなしたじゃないか」 「…そう………………………だっけ?」 「…なんにしても警戒が必要ということだな」 「さぁ両オーナー、武装させたパートナーをエントリーゲートに見送ります…」 他の武装をサイドボードに置くと開始前の静けさが会場を支配する 固唾を呑むとはこの事だ フィールドは…天守閣がそびえ立つ城の中庭 散りゆく桜に満月の光が影をつくる中に二人の悪魔がお互いを見つめている 「負けるわけには…いきません…」 「……勝つ……」 『ファーストバトル…ミュリエルVSレイア、レディ………』 両者腰を落として始まった瞬間の動きを警戒する 『ゴォォォォォォーーーーーーーーーーー!!!』 「はあぁぁぁぁっ!!」 『先に動いたのはレイア選手! 開始の合図に一足早く反応した!』 いや、違う ミュリエルも反応できていたがあえて後手に回ったんだ スクリーンに映るミュリエルの表情に一片の焦りも伺えない 冷静そのもの、完全に誘っている ミュリエルはそれでも接近するレイアをバックステップで距離をとりながら手に持ったシュラム・リボルビンググレネードランチャーで迎撃 会場のあらゆる所に設置されたスピーカーから爆音が響き渡る 『クリーンヒットか!? レイア選手、開始十秒とたたずに終わってしまうのでしょうか!?』 爆心地周辺を覆いつくしていた黒煙が舞い散る桜をのせた風により少しずつ薄らいでいく レイアは満月の逆光を背に浴びながら立っていた それも…… 『レイア選手…む、無傷です! 目の前にかざした巨大な武装で身を護りました!』 目の前にかざした武装…それすなわち紛れもなくエリーからの陣中見舞い、全領域兵器《マステマ》であった 全長はLC3には満たないものの、高強度の防御装甲があるため重量で言えば間違いなく上である それゆえに攻防一体の構えが取れ、前方下と後方下についた悪趣味なほどにギラつく刃は大抵の物を重さとともにぶった切り、前の刃のすぐ上はアレンジのため高エネルギー砲となっている オマケに二機のN2ミサイル…とまでは流石にいかなくても…ASM-Ⅶ『ハルバード』レベルのミサイルを備えてある 『敵意』の名の通り…手加減容赦ない凶悪兵器を自分の前にかざしているレイア 普段はおとなしい、良い子の彼女が始めて悪魔に見えた瞬間である 『無傷…か。防御装甲の強度が半端じゃない…出し惜しみしていて持久戦にでもなれば流れはこちらに不利だぞ』 「了解、《ライトオリジン》……展開…」 右腕手首がパージされ、蓄蔵されていたエネルギーが砲身にプラズマ現象を引き起こす 『レイア、チャージ開始。迎撃方法はわかってるわよね?』 「わかっています御主人様、任せてください!」 『ファーストコンタクトを終えお互い、今だ無傷! 高エネルギー波の力比べとなるのでしょうか!』 それはマズイ 《ライトオリジン》はあらかじめ初発分のエネルギーチャージはすませているはずだ ミュリエルは慌てずに照準を合わせるほどの余流がある 「……Lock」 スコープのど真ん中に映りこんだレイア目掛け高エネルギー波は発射される 『今よ、レイア!!』 「てあ!」 レイアは《マステマ》を持ち上げる さきほどと同じくを表に来るようにするが… 『またしても防御の姿勢に入った!しかし綾川さん、それで防げるのでしょうか!?』 答えは否 受け止められたとしてもミュリエルは次の動きに入る 反動で遅れたところを《レフトアイアン》の速射砲でつめられたら成す術がなくなってしまう 万事休すの展開でも葉月とレイアの目はまだ生きている 『彼女の狙いが防御だけとは限りませんよ』 と綾川さんの一言 『同意見ですね…』 『そ、それはどういう…』 すぐに答えは周知のものとなる レイアは《マステマ》の防御装甲面を展開、下に隠れていたハルバート級ミサイルを後方刃の上部にあるもう一機とともに合計二本、全弾打ち出した 防御装甲面下に隠れていた分は《ライトオリジン》のエネルギー波を相殺し、残る一方はミュリエル目掛けて飛んでいく 『小ざかしいマネを…ミュリエル、《レフトアイアン》!!』 「…展開、迎撃開始…」 即座にパージされた左腕から銃口が現れ雨あられと弾幕を張る …なにか妙だ 普通、ミサイルの迎撃を重視するなら《アポカリプス》も使えばいい… 「彼女、何か狙っていますね…」 マイクを通さずに俺に話してきたのは綾川さんだった 彼女も俺と同じく勘付いているようだな ミサイルは《レフトアイアン》だけでも打ち落とせたが、爆発した距離が近かったせいもありミュリエルは黒煙の中に消えていった 『レイア、決めるわよ!』 「了解です!!」 『昴…借りるぞ』 「…《アポカリプス》…展開」 黒煙の中でミュリエルの呟きは誰にも聞こえることはなかった サバーカの脚力を十二分に使い、正面に《マステマ》の銃口が先にくるように構え、突進するレイア ドスン! という音が聞こえたかと思うと煙の中で両者の動きが沈黙する 完全に煙が晴れた後、そこにあった光景は ミュリエルの腹部を貫いている《マステマ》の刃 しかし致命傷とまではいかない ジャッジプログラムによる勝利判定もない、ミュリエルのギブアップもない つまりまだ勝負は続いているのだ 「《マステマ》の刃は貫き通すためにあらず、《マステマ》の刃は捕らえるために…あるです!」 レイアはそのまま銃口を天高く掲げる 銃口にはミュリエルが刺さったままで身動きをしない…… 彼女の様子を良く見なかったことがマズかった レイアから見たミュリエルは満月と重なり逆光となっていたのだ 「コレで……終わりです!!」 「カルヴァリア・デスペアーーー!!」 『だ、第七聖典!? きまったかぁー!?』 とりあえずそのツッコミは置いといて… そのまま銃口から放たれる高エネルギー波がミュリエルを包んだ…次の瞬間 パン! と音を立ててミュリエルが………『割れた』 普通ならここで大ダメージによるジャッジコールがあるか強制退場となるのだがミュリエルのそれはどちらとも明らかに違っていたのだ その証拠にまたしても勝者コールが聞こえてこない 『こ、コレはどういうことでしょう…ミュリエル選手が倒れたのに勝利判定がありません……』 プログラムエラーでないとすると結論は一つ ミュリエルはまだ……そこにいる 「なっ…確かに手応えはあったハズなのに……」 彼女の周りに散るのは拡散したミュリエルだった物と夜風に舞う桜吹雪 あとはそれを照らす荒城の月……ただそれだけでフィールドの中は風の音のみが不気味に聞こえる うろたえるレイア その動揺が彼女の警戒レベルを一瞬だけ落としてしまっていた 「………Lock 」 レイアの真後ろ… 『なっ!?』 「なんですって……」 《ライトオリジン》を再チャージし終えたミュリエルがその銃口をレイアの後頭部に突きつけていた 『…まだやるか、葉月?』 そこで葉月はやっと納得がいった顔をした 思い出したようだな 『なるほど、そうだった………ふぅ、ここまでみたいね…降参します』 『マスターギブアップ。勝者 ミュリエル!!』 『ぎ、ギブアップです!ミュリエル選手第一試合を勝利で飾りました!!』 呆然となる観客も少しづつ我にかえり拍手や喝采を送り始める 『みゅ、ミュリエル選手が再び現れました…で、では橘さん、先ほどのミュリエル選手はいったい…』 『アレはですね…』 『……バックパックに収納してあった衝撃吸収素材で作られた特殊ダミーバルーン…ですか』 『!!』 綾川さんが俺の言おうとしたことを当ててしまっていた 『彼女がミサイルの撃墜にバックパックを使わなかったこととも辻褄が合います。ミサイルの黒煙は隠れてフェイクのバルーンと入れ替わるためにあえて近くで爆発させたんですよ』 おかしい 『そして入れ替わり、相手の必殺技をやり過ごさせてその後の隙を突く…単純ですがバルーンを展開した後となれば見破るのは至難の業となります』 これは昴が八相の-メイガス-と呼ばれていた頃、あいつの異名の元となった戦術だ ただのフェイクではない 幻の数を多数出現させることができる香憐ねぇの『惑乱の蜃気楼』とは別の、 『完全に同一の物を複製したかのように…-増殖ーしたかのように見せるトラップスキル……ですね』 昔の昴を知っている俺や香憐ねぇでさえ見破るのは至難の業 戦ったことのない葉月にしても、知識としては理解していたはず だか結果としてやられているわけだ アレを見破れる人物なんて早々いないはず…なのに… 少し警戒して彼女を見ると、何事もなかったかのように「なんですか?」というような微笑で俺の顔を見つめ返してくる 『第一試合はアルティ・フォレスト選手とミュリエル選手が準々決勝進出を決めています。それでは一端、CMです」 彼女は…一体… 追記 「桜や、動きはどうなっとる?」 「今のところ、彼女からの新たな連絡はありません」 「そうか、挨拶では少し挑発してみたんじゃがのぅ」 「…調子に乗ってたら彼女に殺されますよ?」 「なんだかホントにシャレにならんの…謝っておいたほうがええか?」 「それが宜しいかと」 「しかし…このまま動かんとなると…ますます嬢ちゃんの言っとった線が濃くなってくるの…」 「…あと、フェレンツェ博士が何かに勘付いている様子でしたが…」 「彼は流石に鋭い。侮れんわい…だが、彼にも話すわけにはいくまいて。嬢ちゃんとの約束じゃからの」 「…兼房様、私で宜しかったのですか?」 「ふぉ。お主が鳳条の名参謀と呼ばれとるのはわしがそう言って回っておったからじゃ」 「は? はぁ…」 「ま、それだけお主を評価してると思っとくれ。ふぉっふぉっふぉ!」 「有り難う御座います、兼房様…」 続く メインページへ このページの訪問者 -